2019年10月発売のシリーズ第2巻、『鬼人幻燈抄 江戸編 幸福の庭』。

衝撃的な展開で終わった第1巻から10年後の世界。舞台は葛野から江戸に移ります。
鬼であり妹でもある鈴音を追って葛野を旅立った甚夜。
自らも「鬼人」となった彼が新たに出会うのは、人か、あるいは同胞か。

様々な謎と真実が交錯する、大注目の第2巻です!
以下、ネタバレ有りの感想・解説となりますのでご注意ください。
登場人物
主要な登場人物をまとめています。
甚夜(じんや)
2巻では28歳~31歳までが描かれる。
江戸で「鬼を討つ浪人」として働きつつ、妹の「鈴音」を追い続けている。
「鬼人」となってからは、見た目が18歳ほどで止まっている。
重蔵(しげぞう)
小間物を取り扱う商家「須賀屋」の主人。
厳しい性格だが、血の繋がりのない奈津を娘として溺愛している。
奈津(なつ)
重蔵が引き取った義理の娘。13歳。
生意気で素直になれない性格。
重蔵を実の父のように慕っている。
善二(ぜんじ)
20歳。須賀屋の手代。
人懐っこくて親しみやすい性格。
茂助(もすけ)
人に化けて生活する「高位の鬼」。
自分の姿を消し、気配を隠す〈隠形〉という能力を持つ。
人間の妻がいたが誰かに殺されてしまう。
三浦直次(みうらなおつぐ)
旗本三浦家の嫡男で右筆を務める18歳。
行方不明の兄を探している。
蕎麦屋店主とその娘・おふう
深川で蕎麦屋「喜兵衛」を営む父娘。
甚夜の行きつけの店。
江戸編 幸福の庭を分かりやすく解説
ここでは『鬼人幻燈抄 江戸編 幸福の庭』を短編ごとに分かりやすく解説します。
ネタバレが含まれますのでご注意ください。
鬼の娘

嘉永三年(1850年)。
江戸で「鬼を討つ浪人」として働いている甚夜のもとに、須賀屋の主人、重蔵からある依頼が入ります。
「大事な義理の娘・奈津が鬼に襲われるかもしれない。それを討ち払え」というもの。
奈津の元に夜な夜な現れる鬼は、なぜか奈津に「娘ヲ返セ」と告げます。
生まれて1年も経たないうちに両親を亡くしている奈津は、自分が本当に鬼の子ではないかと悩んでいました。
そのうえ、実の父のように慕う重蔵には何やら隠された過去があるようで…。
- 過去に妻を鬼に殺されたため、鬼を憎んでいる
- 実の息子がいたが鬼女にかどわかされ、家出してそれきり
- 雇った浪人・甚夜とは昔からの知り合いらしい

「義父の本当の息子が帰ってきたら、私は捨てられるかも…」と奈津はずっと怯えているんだよね…
いっそのこと自分も鬼に襲われたら、大事に思ってくれるかもしれない…。
なんと、義父の関心を引きたいというその奈津自身の想いが、鬼を作り出していたのです。
そんな奈津に善二は「嫉妬や葛藤は当たり前。醜い心もひっくるめて自分だと認め、そこから新しく始めようとする姿勢が大事」だと慰めます。
そうして、甚夜は一太刀のもとに、鬼を両断するのですが…。

実は鬼の正体には、もう一つの真実があったの!
鬼には奈津だけでなく、もう一人、ある人物の想いが混ざっていると気づいた甚夜。
それは、殺された重蔵の妻。
そして「娘ヲ返セ」という言葉は、重蔵の妻が生んだ子供のことを指していました。
つまり重蔵には家を出て行った息子のほかに、娘もいたということです。

家を出た兄と妹…あれ、これってもしかして…?
突然明かされる衝撃の事実!

鬼の正体ーーそれは甚夜の実の母。そしてその娘とは紛れもなく「鈴音」のこと。
つまり重蔵は、かつて鈴音を虐待していたという甚夜の実の父親だったのです…!

なんと二人は長い時間の果てに、雇い主と浪人という形で再会していた!
重蔵は「子を見間違える親がいるものか」と甚夜の正体に気づいています。
そして甚夜もまた、かつて父親を捨てて家を出たことへの後悔や懺悔から、重蔵の依頼を受けたのでした。
壊れてしまった家族はもう戻らない。
けれど重蔵には奈津という新しい家族がいることに、甚夜は安堵します。
父と息子は時を経て邂逅し、また新しい形で歩み寄ることになったのでした。
貪り喰うもの

嘉永六年(1853年)。
31歳になった甚夜が最近通っているのは、店主とその一人娘・おふうが営んでいる蕎麦屋「喜兵衛」。
そこで聞いた話によると、最近「辻斬り」が出るのだとか。
男は獣に引き裂かれたような無残な死体となり、女は行方不明になる。きっと犯人は鬼で、丸ごと喰われてしまったに違いない、という噂です。
調査に出た甚夜が出会ったのは、人間に化けて暮らしていた高位の鬼、茂助。
人間の妻を娶ったものの、件の「辻斬り」によって殺されてしまったとのこと。
妻の仇を討ちたいという茂助と協力し、甚夜は鬼を追い始めます。
しかし茂助はその鬼との戦いで負傷し、最期には「妻の仇を取ってくれ」と甚夜に託しました。
甚夜はかつて葛野を襲った鬼から与えられた〈同化〉の能力を使い、茂助を喰らうことで、姿を消す力〈隠形〉を受け継ぎます。

でもその代償に、左腕だけじゃなく顔まで変化しちゃうの。どんどん見た目も鬼になっていくのかしら(泣)
そして茂助を殺した鬼を討ち、その能力〈疾駆〉(一時的な速力の向上)をも手に入れた甚夜。
その鬼と〈同化〉する瞬間に相手の記憶に触れ、鬼の正体が実は茂助の妻だったことに気づきます。
実は妻は人間の男たちによって殺されており、その恨みから鬼となってしまったのです。
そして多くの女性の肉体を食べ続けることで、元の姿を取り戻せると思っていました。
そうまでして鬼が「帰りたかった」場所ーーそれは愛する夫・茂助の元だったのです。
それを知った甚夜は、諸悪の根源である男たちを探し出し、茂助との約束通りその仇を討つのでした。

鬼と人間、どっちが悪者か分かったものじゃないわね
幸福の庭
幸福の庭に出てくる鬼↓ |
貧乏旗本の三浦家嫡男、三浦直次はあることに悩んでいました。
自分には二つ年上の兄・定長がいたはずなのに、今年の春先に突然消え、
周囲は誰も「そんな男は覚えていない」と言うのです。
そんな悩みを行きつけの蕎麦屋「喜兵衛」の店主とその娘・おふうに相談すると、ある男を紹介されました。
それが鬼を討つ夜叉と呼ばれる浪人ーー甚夜でした。

怪異と聞けば駆り出されるようになった甚夜。みんなから頼りにされているのね!
行方不明の定長を探すため、怪異の解決に乗り出した甚夜と直次。
そしてその原因となる、ある少女に辿り着きます。
少女は城下町を襲った未曽有の大火事によって家や両親を失くし、絶望のすえ鬼となってしまいました。
やがて100年が過ぎたころ、かつて自宅があった場所に新しい武家屋敷が立ち、少女は家族で過ごした幸せなあの日に「帰りたい」と願います。
その瞬間、目の前にはかつての家の美しい庭が。
水仙が咲き乱れ、池では鯉が泳ぐ。そんな幽世の「幸福の庭」に少女は囚われてしまったのです。
そこに迷い込んでしまったのが定長。
彼は一人ぼっちの少女に同情し、幸福の庭に留まろうとします。
「幸福の庭」は現実よりも遥かに速く時が流れる場所。
それでも定長は帰りません。
「俺の娘になって一緒に暮らそう。一緒にここを出よう」と約束します。
そんな少女と兄の物語を知ることになった弟の直次。
「兄を返してくれ」と少女に懇願しますが、実際にはもう手遅れでした。
「ここにはもう、誰もいない」と少女は告げ、自分も定長との約束を守るため、幸福の庭を抜け出すと告げて消えてしまったのでした。
だけどそれだけでは終わらない、怪異の結末があった!

甚夜に協力を仰いだ蕎麦屋「喜兵衛」の店主。
実はこの男、死んだと思われた定長本人だったのです!
通常よりも時間が早く流れる幸福の庭で二十年以上を過ごした定長は、ある日異界から出ることができました。
けれど現実の世界ではひと月も経っておらず、一人年老いてしまった定長は帰る場所を失くし、蕎麦屋の店主になっていたのでした。

現実と幽世での時間の差に翻弄されるなんて、まるで浦島太郎みたいね
そしてその娘・おふうの正体は、なんとあの幸福の庭に囚われていた鬼の少女。
二人は約束どおり一緒に「幸福の庭」を抜け出し、父と娘として幸せに暮らしていたというわけです。
そして甚夜も鬼だとバレてしまうわけですが、目の前にいる鬼女を討つことはせず、常連客の一人として付き合っていくことを決めたのでした。
短編 九段坂呪い宵

実の父親・重蔵から再び依頼を受けた甚夜。
その内容は「九段坂の浮世絵」といういわくつきの美人画の調査です。

「鬼の絵」とも言われているらしい…
そこで思わぬ事実が判明。
この美人画を絵師に描かせたのは、甚夜の義理の父・元治だったのです…!
元治について詳しくは1巻参照
そもそも元治は葛野から江戸(兵庫から東京)に何をしに来ていたのか?
それは「名無し」と名乗る女性に文を届ける為。
妻であるいつきひめ・夜風からの命令でした。

年1の定期的なものだったらしい…
なんでもこの「名無し」という女性、葛野に一時期住んでいたこともあり、夜風と瓜二つだったとか。

何やら隠された謎がありそうだけど、まだこの巻では明かされないの。気になる~!
元治は、惚れた相手である夜風の絵が欲しいと絵師・道舟に頼みますが、道舟は夜風に会ったことがありません。
そこで参考にしたのが「名無し」。
元治が「そんなんじゃない、もっと綺麗に描け」とさんざん口出して完成したのが「九段坂の浮世絵」でした。
義父の意外な過去を知り、いたたまれなくなった甚夜でした。
感想
この2巻はなんと言っても、甚夜の実父・重蔵の登場に驚きました!
1巻では鬼の子である鈴音を虐待していたひどい父親、という存在でしたが…。
妻を失い、子供も出て行って一人残された父。
当時子供だった甚夜も大人になり、白雪という大切な女性を失った今だからこそ、当時の父の想いに寄り添うことができるようになったんですね。

あの日すれ違った親子が再会して、お互いを理解しようと歩み寄る姿に泣けてくるの…
そして甚夜は、いつか「鬼神」となって降臨するという妹・鈴音を止めるため、高位の鬼を喰らってその能力を次々に取り込んでいきます。
その対価なのか、次第に身体も鬼へと変化していっているのが心配なところです…。
けれど、たった一人で葛野を出て放浪していた甚夜のもとに、人や鬼が集まり、少しずつ縁が繋がっていくこの第2巻。
鬱展開だった1巻とは違って、読んでいてとても心が温まりました。
そして、少しずつ明かされる義父・元治の過去。
甚夜の記憶にある元治の最期の戦いも徐々に描かれていきますが、彼が何を抱えていたのか、まだまだその真実は見えてきません。
その謎が明かされるのはいつなのか!? そして次に甚夜が出会う怪異は!?

これはますます続きが気になってきたぞ~!
まとめ

以上、シリーズ第2巻『鬼人幻燈抄 江戸編 幸福の庭』でした!

今後も甚夜と関わっていきそうな重要人物がどんどん増えてきて、物語はますます広がりを見せてきましたね
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