夕木春央『十戒』|ネタバレ図解解説&感想|方舟の続編なの?

夕木春央『十戒』ネタバレ解説 小説
この記事は約18分で読めます。

2023年8月9日に発売された、夕木春央さん著作『十戒』。


前作の『方舟』がMRC大賞2022で1位に輝くなど、期待値が高いミステリーです。

タイトルと表紙が似てるけど…続編なの?

十戒↓ 前作方舟↓

この記事ではそのあたりも含め、図を入れて解説してきます!

以下、『十戒』『方舟』両方のネタバレが含まれますのでご注意ください。

あらすじ

浪人中の里英は、父と共に、叔父が所有していた枝内島えだうちじまを訪れた。
島内にリゾート施設を開業するため集まった9人の関係者たち。
島の視察を終えた翌朝、不動産会社の社員が殺され、そして、十の戒律が書かれた紙片が落ちていた。
“この島にいる間、殺人犯が誰か知ろうとしてはならない。守られなかった場合、島内の爆弾の起爆装置が作動し、全員の命が失われる”。
犯人が下す神罰を恐れながら、「十戒」に従う3日間が始まったーー。

Amazonあらすじより

パッと見、方舟との共通点は物騒なモノが常備されていることくらい…
島は電波があるから、スマホが使えて助けを呼べる状況だよ

枝内島図

丸い島。北に桟橋がありそこからしか出入りできない。中心に作業小屋があり、そこには地下入口もある。南西に別荘があり、基本ここに寝泊まりする。他転々とバンガローが5つある。

丸い無人島。周囲は崖。

  • 北に桟橋がありそこからしか出入りできない
  • 中心に作業小屋があり、地下もある
  • 南西に別荘があり基本ここに寝泊まりする
  • 他転々とバンガロー(木造の簡易な小屋)が5つある

9人の登場人物+伯父

【枝内島視察の9人】 里英…芸大浪人中。 大室…里英の父。今回やらかしナンバーワン。 ・建設会社 草下……50過ぎのおじさん 野村……設計士。40くらいのおばさん。 ・観光開発会社 沢村……30代後半男。視察幹事。 綾川……研修社員の若い女性。 ・不動産会社 藤原……30代前半男。 小山内……40代男。 ・伯父の友人 矢野口……男。成金趣味。

目立たない人は覚えにくいよ… 

【亡くなった伯父】
3週間前に交通事故死した。葬式は行わなかった。
足を悪くしており、最後に島に行ったのは5年くらい前だと思われる。

亡くなってすぐ『この島リゾートにしませんか?』って持ち掛けた観光開発会社は、まぁまぁデリカシー無いよね。

ネタバレ解説

5日間の出来事まとめ

主人公たちが枝内島にいたのは5日間。
まずは出来事をザっとまとめてみます。

初日
9人が島に到着。一泊二日の予定。
島内調査で伯父以外の人間が居た形跡と、大量の爆弾が見つかる。一先ず通報せず一晩泊まることに。里英と綾川のみ同室。
一日目 朝、小山内がクロスボウを刺され崖下で死んでいるのを発見。
犯人から全員への指示書き『十戒』も残されていた。(内容後述)
三日間島に留まらなければならなくなった。
二日目 朝、作業小屋にて矢野口が殺されていた。
よく分からないまま犯人の指示に従う面々。
綾川の秘密裏な行動により、小山内と矢野口が爆弾犯だと判明。
三日目 朝、藤原が地下室で殺されていた。
犯人が死体を始末する間、残る5人は指示に従った行動をとる。
その後野村が起こしたパニックを皮切りに、綾川が十戒を破り「死んだふりをしている藤原が犯人」だと推理を披露する。
藤原が起爆スイッチを押さないことを祈りつつ、明日の朝島を出ることで合意する。
脱出日 迎えを呼び、無事島を脱出。
船の上で綾川に呼び出される里英。すべての真相が明かされる。

十戒の内容

十戒の内容を要約するとこんな感じです。

  • 三日間島を出ないこと
  • 島外の人に現状がバレないようにすること
  • 通報するな・脱出するな・記録するな
  • スマホは回収。必要時のみ全員の前で操作
  • 30分以上他人と居ないこと。※最低5分は一人の時間を挟む
  • 大人しく指示に従うこと
  • 寝室は一人。必ずノックすること
  • 犯人を詮索・告発しないこと

従わなければ爆弾を爆発させる。(島に逃げ場無し)

細かい~~どれかミスりそう~~~

これにより、本土と連絡を取れるにも関わらずクローズド・サークルが出来上がりました。

犯人は何故全員を留め置くのか分かりません。
しかし起爆スイッチを持っている以上、従うしかありませんでした。

逆を言えば、自分だけ逃げて他全員を爆破出来るにも関わらず、「これを守れば殺さない」と十戒を出してきたのです。

理由が無ければ殺さないという姿勢

特徴的なのが誰かが死んだ際のメッセージです。

矢野口は、犯人の正体を知ろうとしたために死んだ。それ以外に、彼が死ななければならなかった理由は存在しない。よって、同様の意志を持たないものは、彼の死を理由に自身の命を心配する必要はない。

他の者の精神を安定させる、フォローの言葉。

なんか親切だ…

これもあり、全員は従順に…ある種共犯関係のように十戒に従います。

しかし以外にもストレスがかかったのが、怪しまれないように本土と通話することでした。

野村さんは息子(悪ガキ)を妹に預けて来ていました。
妹宅のテレビを割った悪ガキ。そこから始まる妹の愚痴。

「姉さんくらい、適当に結婚して、子供作って、離婚してる人、私の周りに他にいないんだけど。
ーーねえ、何とか言ってくれない?姉さん、本当にこれからずっと親やれるの?」

これを他人に聞かれながら、通話しないといけないのです。

きっつ……



殺人事件解説

枝内島では三つの殺人事件が起きます。

  • 第一被害者…小山内(不動産会社)。クロスボウを刺され、崖下に遺体。
  • 第二被害者…矢野口(伯父知り合い)。作業小屋外に遺体。
  • 第三被害者…藤原(不動産会社)。地下室に遺体。部分によりバラバラ。

しかしこの三つの殺人は無差別ではなく、被害者三人は爆弾犯(この島を根城にしていたテロリスト?)で元々面識があったことがスマホの履歴から発覚。

そのことを踏まえた上で綾川(開発会社の研修社員である若い女性)が探偵役として事件を解き明かします。

綾川は「三人目の被害者で、実は生きている藤原が殺人犯」と推理しました。

事件のトリック

その最たる証拠が第二の矢野口殺人事件。
この事件には奇妙な点があります。

「被害者である矢野口の足跡が消されている」ということ。

図解↓

別荘の西から回って作業小屋へ行き、南から戻ってきた犯人。その足跡はしっかり残っているのに、別荘南から作業小屋に向かった矢野口の足跡が消されている。

そして

自分たちの中に殺人犯がいるにもかかわらず、「矢野口は夜中に待ち合わせしていた」という点です。

何故警戒しなかったのか?それは同じ爆弾犯である藤原だったからでは?というのが綾川の推理でした。

矢野口の足跡を消した理由についても

「矢野口が藤原の靴を間違えて履いていった為」という答えを出しました。

間違えるか…?

  • こんな状況で注意力が鈍っていた
  • 犯人が履いて言った長靴は泥が付いたまま発見されているのに、なぜか玄関で泥を落とした後がある(犯人が矢野口が履いていた靴を回収して泥を落とした)

そして間違える可能性のある靴は、藤原のものしかありえません。

これを踏まえたうえで第三の藤原殺人は偽装。

藤原は地下室にある遺体を「地下室に入らず確認するように」という指示を出し、遺体を偽装しました。

こんな感じです↓

矢野口の遺体を解体して活用しました。

動機は?

何故爆弾犯同士で仲間割れが起こったのか?

動機については

小山内が崖から落ちて事故死したため、藤原は矢野口を殺害して自分の死を偽装し、一人で逃亡することにした。

と推測されています。

彼等にしてみれば、これは進退のかかった命がけの旅行だった。

伯父の個人所有である枝内島を爆弾作りの根城にしながら、伯父の死に気付くのが遅れた三人。

  • 交通事故死(突然)
  • 葬式を行わない
  • 開発会社が死後すぐにリゾート化提案
  • 旅行直前まで天気が悪く、証拠隠滅不可

という不運が続きました。

あげく、旅行に同行して爆弾発見のみを防ごうとしたのに

大室が予備の鍵を伯父の家から持参するという余計なことをしてしまいました。

ところが通報されて詰むかと思われた矢先…

大室は伯父(大室兄)が爆弾作りにかかわっていることを危惧し、通報に待ったをかけました。

凄くいらないことをする大室…

所持が禁止されたクロスボウがある事も憂慮の一因でした。

クロスボウ(ボウガン)所持禁止は令和4年3月から

これが事が起こった経緯です。

真相(ネタバレ最大注意)

綾川の推理に納得し、無事島を脱出した残り6人。

然し真の殺人犯は綾川でした。
そして初日同室だった里英は、そのことを知っていました。

帰りの船の上、里英は綾川に甲板に呼び出されます。

「里英ちゃん、お疲れ様。大変だったよね」
「--綾川さんほどじゃないですけど」
「うん。まあね」
犯人は笑った。

残り14ページのところで…!
こんなさらっと明かされるの!?

綾川の殺人は突発的なもの。

爆弾犯三人が島を爆破(皆殺し)してボートで逃げようとしたのを発見し、阻止するためでした。

「助けてくれたんですか?」
「どうかな?正直、私、いっつも、自分が助かることしか考えてないかも。でも里英ちゃんが死ななくて良かったなって思ってる」

綾川の行動まとめ

綾川の行動をまとめるとこんな感じです。

【初日夜】
大室が応接室に鍵を置き忘れていることに気付き、預かっておこうと2人部屋から抜け出す。
矢野口の靴が無いことに気付き不信に思う。(爆弾関係では?)
念のためクロスボウを持って、爆弾があった作業小屋へ。
すると矢野口・藤原・小山内が島ごと爆破させてゴムボートで逃げる算段をたてている!
相手は男三人で、爆弾で脅されれば何も出来ない為絶対絶命!
それでも起爆装置を1人で設置していた小山内を、不意を突いてクロスボウで殺害!
クロスボウ
矢野口・藤原が小山内を探しに来たため、ゴムボートを隠して鍵をかける。(応接室の鍵回収済み)

「もしかしたら、結果的に、鍵をちゃんと保管しておかなかったおかげで命が助かった、っていうこともあるかもしれないので」

とか言ってたわ…

桟橋の反対側のバンガローにて十戒を作成。
藤原・矢野口は何もできずに部屋に戻る。(暗い為死体はみつからなかった)
【一日目以降】
矢野口・藤原を「犯人を見つける相談」などと言って夜中に呼び出し殺害。同室の里英と仲良くすることでアリバイをアピールして警戒心を弱めた。
同時に藤原に全てを押し付ける偽シナリオも作成する。
実行、生き残った皆にも納得させる。

大の男を三人も殺して処分、さらに捏造の真犯人シナリオの作成もしなくちゃいけないんだから、めちゃくちゃ大変だよ…



殺人犯を知っていた里英

自ら「綾川は初日の夜ずっと自室にいた」と言うなど、ある種共犯関係にあった里英。

この物語は里英視点で進むためミスリード…誤解を誘ったわけですが

よく読むと不思議な文章が埋め込まれていたことも事実です。

例えば小山内が殺害された後。

「綾川さんも、本当に何にも知らないんですね。小山内さんのこと」
それが、わたしには意外だった。

昨日会ったところなのだから、知らないのは当たり前。
なのにどうして「意外」と思ったのか?

他にはこんな文も。

死んだ小山内の部屋に移った綾川に対して、

綾川さんは、まるで気にならないようだった。彼女の意外な図太さに畏怖を覚える。

「畏怖」という強い表現を使う程のことなのか…?少し引っかかりますね。
このようにところどころにヒントが散りばめられていました。

方舟あっての十戒

事件が解決したと見せかけて、探偵役が真犯人というどんでん返しがありました。

しかしこの物語、もうひとどんでんあるのです。

もうひとどんでんとは??

綾川は方舟で一人だけ生き残った絲山いとやま麻衣なのです。

サイコパス麻衣さん……
またしてもやってくれました!!

綾川(絲山麻衣)が爆弾犯である藤原・小山内・矢野口を殺害。 私(里英)はそのことを知っていた。

夫が行方不明なこともあり、旧姓を名乗っているそうです。

絲山麻衣とは?

地下建築『方舟』に閉じ込められた10人の1人。
幼稚園の先生をしていた。
地下建築の仕掛け上『一人しか生き残れない』という情報を真っ先に掴み、残り9人を殺したり騙したりして唯一生還した。

もっと詳しく↓
何故つまらないという意見が?夕木春央『方舟』をネタバレ解説

「言ったっけ?私、勝手に人を好きになって、期待して、それでがっかりすることが多いんだよね」

この物語の一番面白い所は、綾川の過去『方舟』を知ってこそ

綾川麻衣は何故一人で逃げなかったのか?という問いに答えが出ることです。

どういうこと…?



【考察】綾川が一人で逃げなかった理由

死体・爆弾・十戒を使って、完全に全員をコントロールしていた綾川麻衣。

初期段階で爆弾の起爆スイッチを手に入れていた為、
「一人でボートで逃げ、島を爆破させる」という選択肢もありました。

皆殺しですが…里英もこれを恐れていました

非道な行いですが、地下建築をただ一人生還した麻衣ならやれるでしょう。
寧ろ三人に一人ずつ手を下して始末して偽の推理をでっちあげるよりは、実感が伴いにくく、シンプルで簡単な方法です。

しかし、ある意味できなかったのです。

それは倫理的な観点からではなく、

「また一人だけ生還した人間」になってしまうからです。

集団行方不明、集団爆死。
そこから何故か一人だけ生き残った人間に対し、警察は何を考えるでしょうか?

「開発会社の研修社員」として来ている麻衣は、勿論身元を会社に把握されています。
顔や名前を変えて逃亡も現実的ではないでしょう。

だからこそ生き残った者たちに嘘を吹き込み、被害者面するしか生きる道は無かったのだと思います。

方舟の出来事が麻衣の選択肢を狭めていた……。

それでもやり切ってくれるのがまた、憎めないですね

「方舟」での経験を生かす綾川

しかし『方舟』での経験は、マイナス方面にのみ作用したわけではありません。
むしろ全力で生かしているな…と感じる場面も多々ありました。

その最たるものが『初動の大切さ』です

方舟で最初に「一人しか生き残れない」という情報を得たことが、生存に繋がった麻衣。

だからこそ枝内島では「鍵置きっぱなしは危ない!」と気づいて取りに行き、靴が足りないことに気付けばクロスボウを持って追いかけるというトンデモ行動にでます。

強すぎるのよ……

さらに「方舟」での精神的駆け引きも流用する場面が。

「娘の里英が居るから、大室が起爆スイッチを持っていても絶対爆破しない」

と、立ち入った話を持ち掛けたのです。

「親は子供を守るために行動する」……方舟での実体験が生かされています。

他にもヒントは結構散りばめられているよ!読み比べると面白いかも♪

里英の心情変化

二度芸大受験に落ち、鬱屈した気分を浮上させるために今回参加した里英。

そんな里英の心情変化もこの物語の注目ポイントです。

初日。里英は伯父との思い出の詰まった島に来たものの、島を商品としか見ていない大人たちに囲まれて物悲しくなっていました。

しかし殺人事件と十戒で状況は一変します。

島から無事に帰るために必要なこと以外は、考える意味がないのだ。

「しんどいことを一旦忘れる」という面では、これ以上の状況は無かったでしょう。

そして事件後。

「戒律って、本来は、人生を懸けて守るものな訳だもんね」

綾川が殺人をしたと知りつつ、里英はその秘密を墓場まで持って行かなければならなくなります。
19歳で背負うにはあまりにも重い秘密。

だから何も知らない父に里英はこう言います。

「うん、分かってる。大丈夫。受験もあるんだし」

この物語に救いがあるとすれば、「受験を成功させるための気分転換」がこの上なく上手くいった、ということです。

里英は逃げてきた「受験」こそが逃避先になるという、出発前と180度違う心情を持って戻ってきました。

まとめ&感想

内容をまとめますと、

「十戒」は「方舟」の続編。「十戒」のみでも楽しめるが、併せて読むと面白さが増す。
個人的なおもしろいポイントは、
①「電波がつながるのにも関わらず、殺人犯によって島から出られない」
②「みんな割と従順に従う」(そのことに納得できる)
③最後のどんでん返し
です。
読了した時、最初に思ったことは「またやりやがった麻衣さん!!すげー女……」でした。
前作「方舟」が好きだったので彼女のその後が知れて非常にうれしかったです。
殺人犯にも関わらず、麻衣の魅力にはすさまじさを感じます。
窮境な状況下で生き抜くために起こす圧倒的な行動力、状況判断力、精神力……惚れ惚れしますね。
しかし、保育士から観光開発会社に転職していたことを考えると、殺人した手で子供に触れることを厭ったのかな…?と、意外な人間らしさが見えてきたり。
「自分が生き残るために何でもやる」という芯のところは変わっていませんが、方舟の経験があったせいで今回は「罪のない人々を救う」という結果になったこともまた面白い。
さらに続編が発売されることを期待したい作品でした。

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この記事を書いた人
ザクロ

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「どこよりも分かりやすい解説」を目指し、手描きのイラストや図を交え、「どういうこと?」とつっこみながら記事を作成しています。
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