ハロウィンに読んで欲しい短編集。レイブラッドベリ『十月の旅人』

ハロウィンに読んで欲しい本『十月の旅人』 小説
この記事は約9分で読めます。

ハロウィンに読んで欲しいレイ・ブラッドベリの短編集「十月の旅人」。

十個の短編が収録されており、
詩的な趣があるホラーサスペンスSFです。

ジャンルの融合が凄い!

一つの物語に全部の要素があるのですが、短編によりどのジャンルに寄るかが異なります。
(例えばSFも、少し不思議から想像力を越えていくものまで)

感動したのがタイトルの秀逸さです。これは十月の旅人たちの物語です。

ネタバレなので詳しくはまとめ部分で。

それでは個人的好きな短編の要約と感想です。

十月のゲーム

ハロウィンパーティーが舞台の一作目です。

引き込まれるハロウィンの情景描写

十月、白骨の仮面やカボチャの提灯が踊り、溶けたロウソクのにおいがただよう十月の末日。
キャンディの甘ったるいにおいが、あわただしい家のなかにたちこめている。
新しいカラメルの衣をかぶせたリンゴがルイーズの手でならべられ、ミックスされたばかりのフルーツポンチがいくつものボウルを満たし、各ドアには紐のついたリンゴがぶら下がり、中身をくりぬかれたカボチャが冷えきった窓から三角の眼でのぞいている。

ハロウィンのわくわくと、カラフルなにおいをリアリティたっぷりにイメージさせてくれる素敵な文章。

”カラメルの衣をかぶせたリンゴ”……作りたくなってきませんか?
”ミックスされたばかりのフルーツポンチ”は炭酸入れたてで、まだパチパチしているでしょう。

私もパーティーに参加したい!と、この時点では思っていました…

仮面の下から、ブロンドの髪がはみだしている。
どくろの眼窩のおくで、小さな青い眼が笑っている。

こちらも素敵な表現。

怖さが、可愛さあるいは輝くものと融合するような様子。
ハロウィンの趣とはこのようなものではないでしょうか?

不気味な”ドクロのガンカのオク”で、ブロンドの髪や青い眼といった、かなり明るい光彩が輝いている。
神秘的な魅力を感じませんか?

あらすじと感想

ハロウィン

登場人物は主人公のミッチ(男)、妻のルイーズ、その子供のマリオン。
マリオンはブロンドと青い眼をした、静かな子供です。

この物語と夫婦の関係において象徴的なのが、下の独白です。

離婚が彼女にわずかな喜びを与えるような気がするうちは、なんとしてもこのままの状態をとり続けてやる。
(略)
たとえば、合法的にマリオンを彼女の手から奪うとか。そう。そいつだ。

夫婦仲は最悪であり、ミッチは妻に一泡吹かせてやろうと敵対心を燃やしています。

幸せになれないし、危ない考え方……

この独白を読み、裁判でマリオンの親権をもぎ取るのかな?と想像しました。
合法的にと言っているので。
合法的にと言っていますよね??

……………

やがて、家に友人たちを呼んでのパーティーが始まります。
大人も子供もたくさんのハロウィンパーティー。
主人公は妻への対抗意識から、パーティーの主導権を握ります。

そして始まる十月のゲーム。

「魔女は死んだ。これがその頭だ!」なんて言いながら、粘土なんかでつくったそれっぽいものを、バケツリレー式に隣に回していくゲームだよ!
本来ならね!!

何となくオチが想像できましたか?

「だめ。明かりをつけないで、明かりをつけないで、ああ、神さま、神さま、つけないで、お願い、お願い、明かりをつけちゃいや!」
ルイーズは今や絶叫していた。
地下室全体が悲鳴に凍り付いた。

主人公の目的は達成されました。凶器の沙汰です。

この悲鳴がもう……
「、」が続く、上手く息継ぎできないような切羽詰まった様子。
人間の限界の感情がうまく表現されすぎていて、ゾワッときてしまいました。

主人公からすれば、切望していたルイーズの絶望はたまらないものでしょう。

パーティーに集まった人たち、そして何よりも夫婦のいさかいに巻き込まれた子供(マリオン)が気の毒すぎます。

死体(それもまだ温かい子供)を手に持って回していた。
理解してしまうと一生もののトラウマ間違いなしです。



休日

地球

「空にあるあれが地球、パパ?」
「うん」
「花火のこと教えてよ、ねぇ」

カンの良い人ならば、この三行で不穏さを読みとれるかもしれません。

火星に住む親子の会話で、子(火星っ子)から親(地球出身)への問いかけです。
子供は決して脈略のない話はしていません。

けれど花火というのは観賞するものであり、それは地球出身の大人たちも同じこと。
なので壮大な絶望SFも短編で終わるのです。
闇を感じますね。



対象

海岸に打ち寄せる波の潤いのあるとどろきが聞こえていた。

これは感想ではないのですが、水音の言語化にグッときたので書き記しておきます。



昼下がりの死

砂浜

きみは血反病患者だ。
出血が始まったら、とまらない。

架空の病気、いわゆる「創作奇病」の男を第三者視点で描いた作品です。

このような病気ならできる限り怪我をしないようするもの。
しかし、血反病患者の彼は無茶を好み危ない橋を渡るギャンブラーというのがこの話の面白い所です。

自分に危害を加えようとする女と不用心に二人きりになります。
浜辺で「背中にオイルを塗ってあげる」と言われて、塗られたのは麻薬の溶液
そして麻痺したところをフジツボの殻こすられ……血が止まりません。

この病気があるからこその殺害方法です。

ブラッドベリはあまりにも冷静で冷酷な犯行を書くのであっけにとられます……

ビーチに血液を固める薬は無く、車は女に乗っていかれます。

そんな状況で

(町まで五十キロ)ときみは考える。
(くそっ五十キロがなんだ)
絶好の散歩びよりじゃないか!

この終わり方なんです。

とても良いと思うのです

諦めないギャンブラー男の感情が、絶妙に不思議な余韻を残してくれます。

タイトルにて結果はでているというのに……



灰の怒り

悪女

殺された男が自分の殺人現場の事情聴取を幽霊として見ている、という構図です。

この作品も”女の描写”が実にみごとです。
仕草、動作、言葉の選び方。”魅力”とはこんな形をしているのではないでしょうか?

「そうなんですわ」猫が喉をならすような声で、わたしの妻はいいはる。
彼女は涙にぬれた大きな黒い眼をしばたたく。
「家に入ったんです。すると夫が死んでいました。そのときーー何かがーーわたしのなかにこみあげてきて、思わず短剣をつかんでしまいました。
死んでいるとわかって、嬉しくて大声をあげながら夫を刺したんです。
そうにちがいありません。」

上の言い分はつまり、
「確かに私は刺したけれど、元々死んでいたので殺人ではありません。
これなら(死んだ男の遺産からの)罰金ですみますよね?」
ということです。

これを死んだ主人公は幽霊として、ただ見ていることしかできません。
憤りを伝える手段なんて、「火葬の際にでた灰が目に入ればいい!」と考えるくらいなのです。

死んだ後のことなんて見たくないなとしみじみと感じました。

大切な人が悲しんでいるのも嫌ですが、自分の死を喜ばれて見せ物になっている様子はそれ以上に嫌ですね。



まとめ

まさに「十月の旅人」たちの物語。

どの短編も、主人公の男は精神的に、状況的に生死の間際をさまよっています。(死んでいつつ、意識だけ生きているというパターンもあり)

それが10月31日のハロウィンをーーー現世と来世を分ける境界が弱まる時を連想させ、非常に秀逸だと感じました。

\シェアしてくれるとめっちゃ喜びます/
この記事を書いた人
ザクロ

読書大好き、考察大好きのザクロと申します!
「どこよりも分かりやすい解説」を目指し、手描きのイラストや図を交え、「どういうこと?」とつっこみながら記事を作成しています。
シリーズものは新刊発売後、随時新情報に更新していきます。Xにて通知しますので是非フォローしてお待ちください!
記事のシェア・相互リンク歓迎です。

Xにて記事をアップ・追記した時にお知らせしています。気になる記事がございましたら、是非下記のボタンからフォローしてください(*ᴗˬᴗ)⁾⁾
小説
スポンサーリンク

コメント

タイトルとURLをコピーしました